東方の国に、一人の男がいた。

強さを追い求め、剣技を磨き、

ある時は勝利し、またある時は負かされ、

それでも強き眼を持つ者を求めて旅を続ける。

やがて人は彼をこう呼んだ。

「魔法剣客」と…。

魔法剣客 対 魔法剣士

(初出: 2005年10月8日 / 更新: 2005年10月10日)


更なる強者を求めて大陸へと渡った魔法剣客だが、彼を待っていたのは地平線の果てまで広がる、荒涼とした砂漠だった。毒蠍と仙人掌で餓えと渇きをしのぎつつ歩くこと3日、遂に彼は土煉瓦に囲まれた街へと辿り着いたのだった。

城門の前に立ち、街の中を見渡す魔法剣客を、3人ばかりの門番達が制した。

「この街に何の様だ」

「旅の者だ、水を分けてもらえぬか」と魔法剣客。

「それはこちらの台詞だ」と門番。「この街は2年もの間雨も降らず、井戸も枯れ、行商人から水を買って遣り繰りしているのだ、客人に分ける水などここには無いぞ」と別の門番も続ける。

「用が無くば今すぐ立ち去れ、さもなくば国王の命により、この場で斬捨てるぞ」と更に別の門番が長刀を構えて威嚇しようとしたその時、物見櫓からの声が彼を制止した。

「待たれい」と櫓から声をかけたのは、紫の頭巾で顔を覆った一人の剣士。彼こそは王国の近衛騎士団長、人呼んで魔法剣士。その巧みな剣技は奇跡を起こす魔法にも例えられ、王国の危機を救ったことは数え切れない。彼は刀を頭上に構えると櫓から飛び降り、錐揉みしながらもふわりと門番達の目前に着地した。

「おお、魔法剣士様が来たなら頼もしいぞ」と沸き立つ門番達。「しかし魔法剣士様が直接来られたということは、王宮に何か大事があったのではないか」

「いかにも、今日の朝、礼拝中の姫君が天啓を受けられたのだ」魔法剣士は門番達に応える。「天啓によると『東方より嵐来る』とのこと。しかしその吉凶については分かりかねるとのことで、勅命を受けて城外を調べようとしたところ、今まさにお前達が異国の者を斬ろうとしていたので、急ぎ止めに入った次第」

門番達の感心する中、魔法剣士は城門前に立つ魔法剣客の方へ振り返る。「さて、貴殿は見たところ東方の国からの者の様だが」

「いかにもそれがし、東方より剣術の修行の為に参った、人呼んで魔法剣客」と魔法剣客。

「まさに悪魔の使いだ、今すぐ斬捨てなければ」とざわめく門番達を、「静かに」と魔法剣士は制止する。

「面白い、貴殿も剣術の修行の身とは」と魔法剣士はうなずく。「東方で鍛えたというその剣術、一つ見せてもらえぬか」

「それがしも大陸の剣術と手合わせするは長年の夢であった、他流試合は望むところ」と魔法剣客。かくして魔法剣客は異国の剣士と他流試合を演ずることとなったのである。これぞまさしく、

嵐を呼ぶは東の剣客、

吉凶占うは西の剣士。

と申すところ。果たして両者の戦いはどの様な決着を迎えるのでしょうか。それは次の解き明かしをお待ち下さい。

つづく


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H-man and HOLY GRAIL published by Nishino Tatami